外来種のしじみの影響
日本では、古くからしじみ漁が盛んな地域が各地に点在し、地域の人々の生活の糧となってきました。
しかし、海外から持ち込まれた種のしじみの繁殖が拡大したことで、日本のしじみの存続が危ぶまれています。
このページでは、外来種の流入の要因や、影響などについて解説します。
日本の在来種
日本の在来種には、宍道湖が代表的な産地のヤマトシジミ、北海道以南の全国に分布するマシジミ、琵琶湖固有の種であるセタシジミの三種類があります。
マシジミへの影響
この中で、外来種の影響をもろに受けているのがマシジミです。
マシジミは、かつてはその名の通り「最もよく見られるしじみ」で、食卓に並ぶことも多いしじみでした。
しかし、現在は少しずつ数を減らし、各地で細々と利用されているだけにとどまっています。
以前のように、市場に出回ることはほとんどなくなりました。
タイワンシジミの台頭
マシジミの減少は、ある外来種の流入によって引き起こされました。
その外来種が、タイワンシジミと呼ばれるしじみです。
日本でタイワンシジミの流入が確認されたのは1985年ごろで、その2年後には、岡山県の水路ですでに繁殖していたことも確認されました。
1990年代には、現在のように日本全国に広がっていったものとみられます。
タイワンシジミとは
タイワンシジミは、中国の南東部や台湾、朝鮮半島、ロシアに生息するしじみです。
マシジミと外観が酷似しているため、間違えられることもしばしばです。
しかし、他の食用しじみに比べて風味が劣り、汚れた水質の場所を好むため、食用には向きません。
流入経路
流入の原因として最も可能性が高いと考えられているのは、人の手によるものです。
具体的には、中国などの原産地から食用として輸入されたしじみが、
・廃棄される際に河川に放流された
・販売前に、国内の河川に一度撒いてから採取するという方法がとられた
(こうすることで、国産のしじみに偽装することができた)
・家庭で貝を洗った際に放出された稚貝が水路で野生化した
・自然を豊かにしようと、外来種とは知らずに放流した
などの要因が考えられます。
特に上二つは故意に行われ、結果的にタイワンシジミの繁殖拡大を助長したものとみられます。
生命力と繁殖力
タイワンシジミは、高い生命力と繁殖力をもち、マシジミの生息を脅かします。
生命力
マシジミが、淡水のきれいな水が流れる場所を好んで生息しているのに対し、タイワンシジミはマシジミの住むことができない汚れた水質の場所を好みます。
護岸にわずかに積もった泥や、小さなくぼみでも生きることができます。
また、タイワンシジミは、生息地の水が枯渇して一旦数が激減してしまったとしても、半年以内にまた水が得られさえすれば、復活することができるほどの生命力の強さをもちます。
繁殖力
タイワンシジミは雌雄同体で、たった一つの個体から驚異的な数にまで繁殖します。
一年を通して繁殖することができるため、一度繁殖が始まってしまうと、到底人の手には負えなくなってしまうのです。
タイワンシジミの及ぼす影響
この種の流入は、具体的にどのような影響を及ぼしているのでしょうか?
遺伝子汚染
マシジミが減少する要因として最も深刻な問題なのが、遺伝子汚染です。
マシジミとタイワンシジミは近縁種で、交雑の危険性があります。
両者は雄性発生という特殊な繁殖様式をもっており、タイワンシジミの精子をマシジミが受精すると、精子側の遺伝情報だけを引き継ぎ、タイワンシジミに近い特徴を持った稚貝が生まれてしまいます。
こうして次第にタイワンシジミに置き換えられたマシジミは、ほんの数年で消失させられてしまうのです。
水質汚染
タイワンシジミは、増殖後に死亡すると水質汚染を引き起こします。
大量死した個体は腐敗し、周辺の水を汚染して悪臭を放ちます。
また、取水施設で通水の妨げとなることもあります。
マシジミ復活に向けての活動
環境省はタイワンシジミによる被害報告を受けて、タイワンシジミを外来生物法で要注意外来生物に指定しました。
要注意外来生物とは、個人的な飼育等に規制はないものの、生態系に悪影響を及ぼす外来種であるために、適切な取り扱いをするよう注意を促している生物のことです。
※現在は廃止され、「生態系被害防止外来種」という名称に変更になっています。
長野県の諏訪湖では、マシジミの復活を願って稚貝の放流が行われました。
その一年半後には、成長途中のマシジミが10個ほど確認され、順調にいけば繁殖が進むのではと期待が高まっています。
他にも、千葉県の手賀沼など、各地でマシジミの復活に向けた動きが盛んになりつつあります。
マシジミが人間の手によって減らされたものならば、こうした人間の地道な活動によって、増やすことも可能かもしれません。
それでも、私たちにできることは決して多くはありません。
安易に生物を自然に放たないこと、日本固有の種を守りたいという気持ちをもつことが大切なのです。